大判例

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東京高等裁判所 平成9年(う)442号 判決

被告人 山本貢

〔抄 録〕

論旨に対する判断に先立ち、職権により調査すると、原判決には以下のとおり理由不備の違法があると認められるから、原判決は、この点で既に破棄を免れない。

すなわち、原判決は、酒気帯び運転の事実を認定した有罪判決であるが、「証拠の標目」としては、単に「検察官請求証拠等関係カード記載のとおり。」と記載したにとどまっている。しかし、刑事訴訟法三三五条一項は有罪の言渡しをするには、罪となるべき事実と法令の適用のほか、証拠の標目を示すことを要求しているところ、法がこのように証拠の標目を示すことを要求している趣旨は、有罪認定の根拠となった証拠を具体的に明らかにすることによって、自由心証主義のもとにおいても、心証形成が証拠に基づいてなされ、挙示された証拠で証明が十分であることを手続面から担保するとともに、当事者の納得を得、上級審の審査に役立てるところにあると考えられる。そして、この理は基本的には本件のようにその審理が簡易公判手続で行われた場合であっても何ら異なるところはない。もっとも、刑事訴訟規則二一八条の二は簡易公判手続によって審理をした事件の判決書について公判調書に記載された証拠の標目を特定して引用することができるとしている。しかし、この規定も、証拠を特定する手段として公判調書の記載を利用してもよいとしているにとどまり、有罪認定の根拠となった証拠を具体的に特定して明らかにすることまでは免除していない。したがって、簡易公判手続で審理をした事件につき公判調書の記載を引用して証拠の標目を記載する場合であっても、その中のいずれの証拠によって事実を認定したのかを特定・明示する必要はあるのであって(通常は証拠等関係カードの証拠番号を明示することによって特定している。)、事実認定に供しない証拠をも含めて包括してその記載を引用するようなことは許されない。ただし、例えば、公判調書の証拠等関係カードに記載された全部の証拠を引用する必要があり、それら全部を引用した結果包括的ともみえる記載になったような場合には、特定して引用したことには変わりがないから、右の記載が違法といえないことは当然である。これを本件についてみると、原判決が、公判調書の証拠の標目を引用するに際して、これを特定して引用していないことは明白といわなければならない。すなわち、原判決は、前記のとおり「検察官請求証拠等関係カード記載のとおり。」とするのみで、証拠等関係カードの証拠番号を明示するなどして個々的に証拠を特定して引用していない上、原判決が引用する「検察官請求証拠等関係カード」記載の証拠の中には身上調査照会回答書、交通前歴調査表、前科調書、略式命令謄本など、およそ本件の犯罪事実の認定に供したとは考えられないものが含まれている一方、本件は被告人が公判廷で事実関係を認める供述をした事案であるから、被告人の公判供述は当然事実認定の用に供したと思われるのに、原判決はこれを掲げていないのであって、このような事情に照らすと、原判決の記載は、公判調書の検察官請求証拠等関係カード記載の証拠全部を掲げる必要があるとして同カードの証拠の標目全部を引用した趣旨ともみることができないのである(なお、原判決は、証拠の標目欄の記載を「検察官請求証拠等関係カード記載のとおり。」としていて、弁護人請求分や職権分が除かれているという意味では単に証拠等関係カード記載のとおりなどとした場合に比べて多少限定を加えているようにもみえるが、右のような事情に照らすと、やはり実質的には同カード記載の証拠全部が必要な場合であるとしてこれを特定の上引用した趣旨とはみることができない。)。要するに、原判決は、事実認定に供した証拠とそうでない証拠とを選別特定することなく、漫然と検察官請求の証拠を包括して証拠の標目欄に掲げたとみるほかないのである、結局、原判決は、これを公判調書の記載と照らし合わせて検討しても、いかなる証拠を犯罪事実の認定に供したのかが明らかになっていないといわなければならない。したがって、原判決は、証拠の標目を示すことを定めた刑事訴訟法三三五条一項の要請を充たしているとはいえず、この点において、理由を付していない違法がある。

(門野博 下山保男 福崎伸一郎)

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